第四章 因縁があるくせに、縁があったりもする件☆

 旅のご一行様と書いて、パーティー。しかも、勇者ご一行様(二名)
 しかも、そんじょそこらの自称勇者と違って、王様のお墨付き。国家公認勇者。公務員扱い。
 アリスが足を止めずに歩いているのは、エースが引きずっているからだ。

「ひーとーさーらーいー…」
「おおっとそれは版権違い…」
「何で知ってるのよー!!」
「はははっ!さあ?」
 ビビった。マジビビった。そう呟くアリスは、レベルが上がると共に、勇者として知力が落ちている。
 そう、勇者とは少しおバカさんじゃないとなれない職業だ。これも版権違い。
「あー娘…」
「言うな、言うんじゃない。そして何気なく人の考えを読むなんてナイトメアな芸当をさらすな」


「しかし、勇者と騎士って猪突猛進なパーティーだよなー…」
「そうよねー…っていうか、勇者って呼ばないで。お願いだから」
「何で?伝説の勇者いいじゃん。俺はゴメンだけどなーっ!しかも装備は秘密のバスケットひとつ!ははは無謀だぜ!」
 器用にも爽やかな半笑いでエースは答える。

「…あなたは私に武装しろって言わないのよね」
 勇者としての威厳を…もとい、流されがちな雰囲気を、アリスは清く正しいものにしようと試みた。
「したければすればいい。どちらも強制しないよ、俺は」
「……財布も別なのよね」
 中盤以降は持参金…と書いて高値で売れる装備と読む…付きのキャラが仲間にするなら美味しい。
 アリスの冒険自体、初期なのか、中盤なのかそれすら分からないけれど。
 そんな黒いことを考えこみながら、下を向いてエースに引っ張られるままに歩いていたが、ふとその足が止まる。
「エース?どうしたの?」
 アリスが顔を上げると、向き合う形でエースが立っていた。
「…アリス、それって逆プロポーズ?財布を一緒にしようっていう…」
「ち、違うから!」
「声、裏返っているよ?」
 からかわないで!という声とエースの笑い声が周囲に響く。
「私は武装する予定が無いし、あと6時間帯以内にこのゲームを終わらせてメイドの仕事に戻るんだから!」
 アリスはびしっと宣言した。
 そう、残り6時間帯。
 エースに引っ張られて3時間帯歩いた。
 お約束通り、迷子である。


「足が痛い…」
 アリスは、世界一弱い勇者だと自負するところがあった。
「休憩にする?それとも、道を訊く?」
「えっ?」
 がばっと音がする位の勢いでアリスが顔を上げると同時に視界に緑以外のものが入ってきた。
「よーアリス!アンタこんなところで何やって…ってそうか…」
 背の高い彼、明るい声で尻すぼまりの呟きさえも遠くからでも声を届かせてくる肺活量。
 ざんざんと、アリスの足首位まである草むらを大股で踏みしめて近づいてきた。
「…迷子…だな」
 エースとアリスの顔を見比べてしみじみと言う。
「すごいなぁ!よく分かったね!」
 素直に賞賛の笑顔をエースはエリオットに向ける。

「…何も言わないでくれる?」
「…アンタがそう言うなら…」
 同情の笑みと疲労の笑みが交わされる。


 隠せるものならひた隠しにしたかった『伝説の勇者』の称号をあっさりエースは口にした。
 エリオットは素直に驚いて「ちょ、ちょっと待ってろよ!野暮用片付けてすぐ戻ってくる」と言い残すと森を抜けて行ってしまった。
「きっと帽子屋屋敷は近いのね…」
「行ってみる?」
「言葉とは裏腹に逆の方向に足が向いてるわエース。エリオットが待っていてといったのだから、ここで休憩にしましょう…」
 あと6時間帯には絶対仕事に戻るけどなと強い決意のもとに、休憩を取る。

「テント張る?休憩するとHPとMPが全快するよ?…ただ俺のテントだとちょっと君のHPは保障しかねるけれど」
「…宿屋じゃないんだ…」
「宿屋がご希望だった?その代わり、セーブがフィールドでできるよ?君、あんまり教会で戦いの記録取ったりするの、好きじゃないだろ?だから、そっちにしちゃった」
「え?エースが決めたの?始まりは王様に無理やり冒険に追い出されたのよ?てっきりそっち方式だと…」
「そっちってどっちさ。あ、歳をとりたくないから、馬小屋に泊まるとかそういう方式もあるけれど…」
 エースがカラリと笑う。
「…マニアック過ぎて…ワケわかんない…」
 なんとなく手持ち無沙汰になって、アリスはコンフィグ画面を開こうとした。
「…あれ?あれ?開かない…」
「だってイベント中だから、もう強制進行だよ」
「ええっ!何それ!何でエースにはソレが分かるのよ!」
「ははははっ!さぁ?レベルの違いかなー?」
「あなた、一体レベルいくつなのよ!ステータス開示しなさいよーっ!」
 不公平だとアリスの疲労感が怒りによりリミットブレイク☆

「ははははっ!アリス元気じゃないか!ステータスが興奮状態になっていたりするかな?………はい」
 出されたカップを思わず受け取ってしまった。
 無骨な金属のカップから、薄紅がかった琥珀色の液体が注がれている。香りからして紅茶だ。
「熱いかもしれないから、気をつけて」
「ありがとう…」
 エースはポンポンと自分の腰掛ける倒木の隣を叩いて、アリスに座るように促した。
 立ち上る湯気に幸せを感じながら、アリスはそれを口に含んだ。
 飲み始めると、咽喉が渇いていたのか、くくくっと一杯すぐに飲み干してしまった。
「沁みますねぇ…」
「…君、疲れてるの?」
 お前が言うな。アリスはツッコむ気力も無かった。


「お、ね、え、さ―――――――ん!」×2
 声が先か姿が先か、ものすごい勢いでアリスに抱きついてくるものが居た。確かめるでもなく…
「…ディー!ダム!」
「…やったかな?兄弟?」
「…いや、さっき弾かれた音が…」
 殺ったかなって…とアリスは生唾を飲んだ。やはり、この世界はスルースキルが高くないと生き残れない。

「あっぶないなぁ!君達。武道に携わる者なら、自分の武器を粗末に扱っちゃいけないぞ」
「…やっぱりアイツ強いよ兄弟…」
「…うん、まさか僕達の自然な斧投げを両方避わしてかつ、両方掴んじゃうとは思わなかった…」
 アリスには聞かれても構わないのか、両側から挟んだまま頭上でひそひそと子供達は囁きあっている。

 どうしようか思案しているアリスに、ゴチンゴチンと痛そうな音が間近で聴こえた。
「いたっ!」
「いた〜い!」
 設定がしっかりしているこの二人。ちゃんと痛がる時もキャラ分けしている。アリスは感心した。

「…お前ら…ちょっと目を離すとサボりやがって!斧だってアリスに当たったらどうする気だったんだ!」
「馬鹿ウサギ!っと言いたいところだけれど、今日は残業したくない気分だから撤退するよ」
「ひよこウサギ!って言いたいところだけど、ここに居るだけで散財した気分になるから撤退するよ」

 仲良し双子はエースから自分達の斧を引っ手繰るようにして取り返すと、さっさとまた森の向こうに消えていった。
「…あら、珍しい展開」
 アリスがひとりごちると、途端、ファンファーレと共に、意味不明なアナウンスが流れてきた。
「アリスはレベルが上がった!ステータスが上がった!新しいアビリティを手に入れた!双子達はアイテムを落としていった!」
「…え、今のでレベルアップ?意味わからないけど、それよりドロップアイテムどこどこ?」
「俺達が撃退したから双子君達から経験値貰ったんだと思うんだけど…それよりドロップアイテムが大事って…アリスって時々酷いよなー…」
「…あーわかんない。コンフィグ開いちゃえ!持ち物メニューの中に入っているかもしれないし!」
 アリスがコンフィグを開くと、パーティーメンバーが増えていた。

 エリオット
 HP :オーバーワークってある意味スキルだよな
 MP :自称、犬

「…エリオットがパーティーに入ってる…」
「ああ、もしかして、さっきの双子君達を拳骨かましたから?あれが戦闘扱いされたんだよ、きっと」
 アリスに説明しつつ、そっかそっか、君の合流イベントだったんだとエースはエリオットの肩をばしばし叩いて笑っている。
 痛いと抗議しながらも、怪訝な顔をしてアリスに説明を求める視線を送ってくくる。
 理由が知りたいのはこっちだと思いながら、アリスはとりあえず疲れた笑いをする。

「…お茶の続きにしましょうか?」
「いや、でも…」
「ね?」
「だから屋敷がすぐそこだし…」
「…ね?」
「俺はちょっと話を聞くだけのつもりだったし…」
「……ね?」
「おーい、二人ともお茶入ったよ!」
「ありがとうエース。ね、バスケットにお茶菓子あったわよね?」
「ああ、アレな。おっ!素晴らしい…ちゃんと人参味のがあるよ?」
「まあ、素敵!エリオットに是非食べて貰わなくちゃ!」
「…何かわかんないけど、人参味かぁ…ありがとな?いただきます…」


 …そして、事実を知ったエリオットが、かつて無いほど絶望的な角度で耳を垂れさせることになる。
「ええっ!マジで!俺、伝説の勇者ご一行様て柄じゃねーよ!マフィアだぜ?悪い奴だぜ!」
 自分で悪い奴って…
「でも食べたでしょう『伝説のKIBIDANGO』だから協力して頂戴ね。私、さっさとこのゲーム終わらせたいの。何って言ったって、あと6時間帯以内に冒険を終わらせて、仕事に戻って、本の続きを借りなくちゃいけないの!」
「………仕事熱心なのはいいことだが………あんた…最後のが本音だろ…?」
 長台詞に思わず冷静にツッコむエリオット。
 ひとり、他人事のように、ハハハとエースが笑う。
「俺は別にこの冒険をゆっくり愉しんでもいいんだけどなっ!」
「いや、俺も仕事が…」
「マフィアは商売繁盛じゃなくていいの!一時間帯休憩したら、出発するから!」
「マジかよ!ま、待ってくれ、急ぎの仕事を終わらせて、一時間帯後に合流できるようにしてくるから」

 そして、エリオットは正しく脱兎の如く駆け出した。
「…君、彼のステータス見たんだよね?」
「見たわよ、さ、テントで仮眠しましょうよ?疲れちゃったわ…」
「だから追いかけないのか………君も結構…ま、いっか…」
 『伝説のKIBIDANGO』さえ食べなければ、一時的なパーティーメンバーであったのだ。
 アリスはエリオットをパーティーメンバーとして確定させたのだ。
「…ディーとダムの落としたドロップアイテム回収しなくちゃ…」
 先程から、フィールドに「ここを調べろ!」とマークが出っぱなしなのである。


続く


■なかやすみ
とても人口密度が高い構成。文章をにぎやかにしたかったから。
初出日
2010/07/02 Faceless@MementMori