第五章 メンバーを集めるうちに本筋を忘れそうに(略)☆

「なーアリス、そのステータス画面って便利だなー…」
 何だかんだ付き合いの良い彼は、宣言通り仕事を片付けて、一時間帯は冒険に付き合ってくれることになった。
「それがあれば、部下の査定があっと言う間に終わっちまうし、抗争相手の情報を探るのにも便利だし、手打ちする時の警備だって…」
 随分生臭い話である。

「でもね、全部の情報開示できるとも限らないらしいのよ…」
「そうなのか?じゃあ、逆に頼っちまうと危険だな…そこに丸腰って出ていても丸腰とは限らないんだな?」
「…そのようなもの…ね…」
 エースをちろりと眺めると、にっこりと笑顔で返された。

「ちなみに、俺、申し訳ないんだが、一時間帯が過ぎたら、仕事に戻らないといけないんだ…でも、またその後一時間帯したら仕事片付けて戻ってくるから!」
「構わないわ。忙しいあなたに無理をさせているのを知っているもの」
 無理に仲間確定したんだし。…という言葉は呑み込んでおく。

「あんた…優しいよな……」
 ぱああと音を立てそうな程、顔を輝かせてエリオットは感激する。
 姉さん、私結構腹芸できるみたいです。

「…ってそっちじゃねぇ!時計塔に向かうんだろ!そっちは森、抜けると遊園地だ!」
「えー…こっちが時計塔への近道だと思うんだけれど…」
 アリスは楽をしている。エースを力づくで迷子から連れ戻す役目をエリオットに押し付けたのだ。

「…仲間になっちまってる俺が言うのもナンだけどさ…本当に時計塔に行くのか?俺、アイツ見たら撃っちまいそうだ…」
 心底毛嫌いしているらしい表情をエリオットは浮かべている。
 本当に撃ちそうだなぁと思いつつ、何とかなるだろうとアリスはエースに視線をやった。
「何?」
 にこにこにこ。エースの表情は読めない。
「…いいえ、エリオットの為にも、何より私の読書の為にも、早く終わらせたいわねと思って」
「あんた、本当にいい奴だよなぁ…」
 いいえ、そうではありません。
 否定の言葉は呑み込んでおく。

 時計塔が目の前に現れ、エリオットが重い溜息と共に、敷地に一歩足を踏み入れるより先に、時間帯が夕方に変わった。
「…ご都合主義だなぁ」
 エースは呟くが、エリオットは気にも留めずに、喜色満面にして帽子屋屋敷の仕事に戻って行った。
「うーん…彼は離脱キャラかー…」
「離脱キャラ?」
「うん、時々居るんだよ、ストーリーの途中で攫われたり、裏切ったり、行方不明になったり、暴走したりするキャラ。…あー時々一緒に居る時間が決まっているキャラとかも…まあ総称して離脱キャラ」
「…それって、装備置いていってくれるの?」
 最強装備や希少価値のある装備を着けっぱなしで離脱されると、結構痛手。
「そういう時のコンフィグだと思うよ?でも、君の冒険に限っては大丈夫なんじゃない?」
「あ、本当だ。どうしてわかったの?」
 エリオットの装備は特に持ち物の中にはリストされていなかった。
「だってさ、皆、専用装備だろ?使えないことはないけれど好んで誰かの愛用の武器を使ったりはしない」
「あー…そうね…」
 あなたのステータスが見られないから、分からないことだらけなんです…とは言えないアリスだ。
「それに彼が離脱キャラってことは…ここであいつが仲間になるかもなっ」
「いいわね…試してみる価値あるわね…」
 アリスだって、やりたくもない冒険をしているのだ。
「呉越同舟?」
「そうそう…」
 アリスはちょっと意地悪く笑った。


 案の定無愛想にユリウスは仕事部屋の机に鎮座していた。
 仕事中に愛想がいいのもアレな感じだが。

「ユリウス、仕事ばっかりして。たまには休憩を入れなさいよ」
 計画的犯行とばかりにアリスは手際よく珈琲を淹れた。
 勿論お茶請けは『伝説のKIBIDANGO』展開がベタだが早くシナリオをこなすにはこれに限る。
 よく考えれば、アリスは友人宅にずかずか上がり込んで、仕事の邪魔をして勝手に台所を使ってそこにある珈琲を勝手に淹れるスゴイ女なのだが、誰もそこは突っ込まないので、問題ではない。

 流石にユリウスは見慣れないものに反応した。
「何だこれは?」
「ちょっと珍しいお菓子よ。珈琲に合うと思って。手土産」
「お前達が選んだのでは、珈琲に合うかどうか怪しいものだが…まぁいい。いただくことにする」
 その一口が、後悔の塊にあるのだが…アリスは素知らぬ顔で、エースはいつもの笑顔でユリウスがそれを食べきるのを待つ。

「はい、食べたー!接収!接収!」
 アリスは両手をぽんぽんと打つ。

「うわっ!な、何だ!」
 エースがユリウスを背後からはがいじめにする。
「はい、暴れちゃダメだよーユリウス。君は伝説の勇者様ご一行メンバーになったんだ。勇者様の冒険に着いて行かなくちゃならない。それがルールだ!」
 『伝説のKIBIDANGO』をアリスはユリウスの目の前に掲げてみせる。
 ユリウスの顔から血の気がさっと引いた。
「お前達!私をハメたなっ!」
 だから何だと言うのだ。家族が居なかったことをありがたく思え。場所固定(時計塔)キャラが旅に出る場合、そこの住民が一族郎党皆殺しが定番だ。

 ユリウス
 HP :ヒキコモリですが、大型機器も使うので力持ちさん
 MP :髪に天使の艶リングが

「わー…ホントにマジかよポイントだ…」
「人のステータスを勝手に見るな!」
 ユリウスの言葉と共に、ステータスがヒドゥン(隠し)に切り替わった。
「えっ!ズルイ!」
 アリスが思わず叫んだ。

「私をハメたお前が言うか?…おい待て、さっきちょっと見えたが、パーティーメンバーに妙な空欄があったな…?」
「そうかしら?」
「何故目を反らす!…おい!お前達…」

「私が伝説の勇者とやらから解放されれば、あなたもお役御免なのよユリウス!さっさと終わらせましょう!」
「…今ほど私は自分が役人であったことを呪ったことはない…役人でなければ、チートデータでさっさとエンディングさせて仕事に戻るのに!」
「…うわぁ…ユリウス結構キワキワなこと言って…ところでね、ユリウス」
「…何だ…」
「イライラしているところ悪いんだけどね」
「…早く続きを言え!」
「じゃあ言っちゃうけど、場所がこの時計塔でね、エースと私が居て、夕方の時間帯で現れるのは次のうちどちらでしょう」
「なっ!」
 今度こそ、ユリウスの顔から色が失せた。

「1.ビバルディ、2.エリオット。二択。ユリウスって友達居ないから」
 エースが難しい質問だなと、したり顔で顎に手を当てている。
 先程、もうこれ以上変わることもないだろうと思ったユリウスの顔色がみるみる蒼くなって、次に怒りで頬を染めていく。
「きゃ、色っぽい」
「うわっアリス、命がけのジョーク!」
 ああ、これでクリアできるのなら、なんてチョロいゲームなんだ。

続く


■なかやすみ
ガイシャの名前はユリウス。可哀想に。
初出日
2010/07/02 Faceless@MementMori