第七章 疑惑のユリウス(違)☆

「結局、ユリウスってオネエキャラだったのか?」
「さー最近仕入れた情報によると、ネオロマでそれっぽいキャラを熱演していたとか」
 化粧して、金髪でメッシュちょっと入ってるって話だ。
「…あの声で?」
「そう、あの声で。ちゃんと攻略対象で、結構ハマるらしいよ?」
「…超聞きたいです。何でエースはそんなこと知っているのよー」
「丁寧な口調で聞きたいことをアピールした理由を合理的に説明できたら、教えてあげてもいいけど」

 不穏な空気が流れた。

「…で、ユリウス『イー』って奇声をあげて登場してきたヤツらに浚われて…」
「それ、事実だとしても何かとマズそうだから、あの奇声は無かったことにしない?」
「事実の隠蔽?」
「そう。どうでもいいじゃない。結局ラスボス倒さないと話が終わらないんでしょう?それに、どっちかっていうと『フォッフォフォフォ』とかの方が…」
「…ああ、双葉君か?」
「双葉って言うな!…っていうか確かに双葉よね」
「君、笑いすぎ」
「エースだって…」

 暗雲は胡散霧消。


「あー…もう時計塔に籠もって、ゲーム放棄しちゃ駄目なのかしら?」
「ゲーム放置?よく聞く話だけどさー投げ出すならまだいいけど、消化する気の失せた積みゲーとか」
「時計塔の階段下りるのも辛いし」
「君、体力無さすぎ」
「だって乙女ですもの。19歳で………あれ?声が出ない」
「そこから先は、ちょっと規制が厳しいんだよアリス。しょうがないから、塔を降りようぜーきっと、その頃にはご都合主義で時間帯変わって、帽子屋さんところの親切なうさぎさんと合流できるはずだよ」
「え〜…だって今エースの迷走っぷりを止める元気が無いほどの疲れっぷりよ、私」
「…君、本の続きはいいの?」
「もう、メンドクサイかなーって」
 ユリウス救出は読書以下ですかい。

「…………よいしょっ」
「!?」
 おもむろにエースがアリスを抱き上げた。
「とりあえず、塔を降りればいいんだよな?」
「そ、そうよ?」
 声が裏返るアリス。
 エースはニコリと歯を見せて綺麗に笑う。
「じゃあ、近道しよう!」
「待って、エース待って!」
「どうして?」
「嫌な予感しかしないから!」
「そう?論理的な解なんだけれど。っ!」
 言うや否や、エースは時計塔の窓からアリスを抱えて飛び降りた。
「いやーっ!遊園地の絶叫系は好きだけど、あれは安全装置があるからーっ!まさかの飛び降り自殺!?」
「はははっ君、余裕あるよなっ!大丈夫!俺自殺願望ないしー!」
「着陸の衝撃はどうするのよーっ!!」
「あ。それは」

「ぐぇ」

「ほら、クッション(生身)アリス知ってる?飛び降り事件の中で、結構な確立で下を歩く通行人が巻き添え喰って、ご臨終するんだよ。で、飛び降りた側は助かる」
「そ、そんな豆知識は要らない!…きゃー!しかもエリオットじゃないのっ!!」
 仕事を早々に片付けて合流しようとした何とも健気なウサギがぺしゃんこになっていた。

「……マフィアとはいえ、流石に死んじゃった…?どうしよう、目撃者居ないなら埋めて逃げようかな…?」
「…君、結構酷いことさらっと言うよね」
 アリスはバクバク言う心臓をなだめつつ、こんな時くらいしか感謝しない神に祈りを捧げた後、恐る恐るつぶれたエリオットを見た。

「…何かエリオットにモザイクかかってるんだけどー!!」
 半泣きでエースに掴みかかる。

「はははっ!やだなぁアリス。大丈夫だよ。ほら」
 エリオットがむくりと起き出してきた。

「中立地帯で俺に奇襲!?くそっ!どこのどいつだ!?ぶっ殺してやる!?」
「…ああ、あれは悪人面のエリオット…助かって良かった…けど…」
 アリスの顔から血の気が失せる。
 どう宥めたら良いものか…またもや生命の危機に瀕して、脳に血液を集中させてアリスは良策を考え出さねばと必死になった。

 そんなアリスを傍目に、エースはシリアスな声で、憤り覚めやらぬエリオットの肩にぽんと手を置く。
「そうそう、君が居ない間にね、仲間が増えたんだけどね。………浚われちゃったんだよ。俺たち助けに行かなくちゃいけないんだ。…話の都合上」
「何だって!仲間が浚われた!そりゃ大変だ!すぐ助けにいかねーとなっ!おい!どっちだ?」
 …何ていい人、いいウサギ、いい犬なんだろう…アリスはこの熱い血の滾るお兄さんに感動した。

「ほら、早く!行くぞ!どっちだよ!?」
「あっち」
 エースとアリスは間逆を指差す。

「…そうか…こっちか!」
 エリオットはアリスの指差す先に向かって、先陣切って走り出した。
「おーい!行くぜ!」
「あっちだって言ってるのに…まったくウサギさんはどこでも立派な耳があるのに人の話を聞かないよなー…」
 呟くエースの襟首をエリオットが引っ張って、遊園地に足を向けた。

続く


■なかやすみ
初出日
2010/07/02 Faceless@MementMori