第八章 ラスボスは自城から出ることがない定説☆

「やってきました!遊園地!どれから乗る?」
「違!」
 びしっ!
 エースはアリスとエリオットの二人からツッコまれる。
「何だよー遊園地せっかくライトアップされてるんだぜー」
「私は、あと二時間帯で仕事に戻って本を借りるのよ!これ以上、寄り道している暇なんかないんだから!」
「俺だって、ブラッドが活動的な夜の時間帯のうちに、片付けたい仕事があるんだ!ちゃっちゃと済ませようぜ!」
「しょうがないなー…ワーカーホリック人口密度高すぎるんじゃないか?」

「仕事しろよ高給取り…」
 アリスがちょっとイラッとしてエースを見た。
「ああ、エリオットここからどうしたらいいのかしら?」
 ゴーランドの遊園地は広い…今更だ。何せ規模が「領土」なのだから。
「どうしたらって…あんたたち、仲間が浚われた現場に居合わせたんだろ?俺居なかったし、分かんねーよ…。…ところで、仲間ってどんなやつだ?」
「えっと…」
 アリスは口許が引き攣った笑顔をとりあえず向ける。
「おーい。君達、どうしてこんなでかでかと書かれた看板見のがすのさ?」
 エースが二人に向かって叫ぶ。
 天の助けとばかりに、アリスは視線をそちらにやると、信じられない文字が書かれていた。


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 魔王城こちら→

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 ■ファストパス
 FP発券機調整中

 ■ご注意
 ・一般のお客様は入場できません。
 ・本アトラクションは伝説の勇者様ご一行のみ、ご参加できます。
 ・身長120センチ以下のお客様は参加できません。

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「一般のお客さんが入れないのに、何故ファストパス…」
「魔王城だからじゃない?」

 頭上を走るローラーコースターから、嬌声。
 人生って何もかも虚しい。


 頤をつまんで、少し考え事をしていたエリオットが口を開いた。
「そういえば、時計塔市街で、求人広告貼ってあったなー…新アトラクションがどうとか…」

「え、急ごしらえなの!魔王城って!?」
 アリスにとって、衝撃の事実である。

「そういえば、ウチのショバでモグリの商売やってたやつに、人身売買…本人曰く、人材斡旋業やってたやつがいたな」
「…帽子屋ファミリーのお膝元で、命知らずなことね…」
「おう。みせしめに片腕と片足貰ってやったぜ!」

 聞きたくないそんな話…

「そんでな、ソイツのヤサを探った時に、調査報告書を上げさせたんだけど、俺が目を通したとき、思ったんだよ。結構な人数を遊園地に送り込んでたなーって」
「………急ごしらえのくせに………!!………どこまでも金と手間のかかることを!!」
「…アリス、君だって急ごしらえの伝説の勇者だしね」
 ひとのこと、言えないよ?というもっともなエースの言葉は流す。

 アリスはふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「…人のこと、急に超恥ずかしい称号で呼び始めたと思ったら、魔王城は急ごしらえだし…一体何なのよ!ふざけすぎじゃない!」
 エリオットがちょっと気おされている。

「エース!エリオット!行くわよ!」
「…おー勇者様がやる気だー…」
「その名で呼ぶなっ!さっさと仕事終えて、私は本の続きを読むんだからっ!」
「そこクドい程は訂正するんだね…ちなみにさ、コンフィグで君のレベル確認したけど、これ、低レベルクリアチャレンジなの?後で動画投稿サイトにでも載せるつもり?」
「ひとのコンフィグ、勝手に見るなっ!戦闘とかレベル上げとか面倒なのよ!…あなた達強いんでしょう?期待しているわよ!」
「……わぁ他力本願」
「アンタがそう言うなら、俺は構わねぇけど………死ぬなよ?」
 あ、エリオットが妙にリアルなこと言ってる。

「…作戦は、命を大事に。よ?…でも称号が勇者なせいか『どうせ誰もが一度は死ぬんだ!太く短く生きようぜ兄弟!』って気分よ」
 エリオットが頬を紅潮させ、耳をぴんと立てた。
「ヤりまくるか!なんかそういうアンタも悪くねぇな!」
「はははっ!俺は御免被るけどなっ!」
 協調性の無い赤い男が笑う。

「…ねぇ、何騒いでんの?」
 そして、要領いいくせに、この時ばかりは間の悪い猫が現れた。
 アリスの目がぶきみに光る!

「確保ーっ!」
「了解!」
「にゃにィ!にゃんなのー!」
 尻尾を引っ張られ、自身のファーで結構恥ずかしい締められ方をしたボリスができあがった。
「…猫玉……」
 シュールな可愛らしさに、アリスは思わず手を延ばす。
「ひでーよ!何すんだよ!」
「触って…いいわよね?」
「…アリス、あんた顔邪悪なんだけど…」
 ボリスが毛を逆立てて、威嚇しだした。
「…俺の耳触る時も、アリスってあんな感じ…」
 エリオットがぶるりと身を竦め、ボリスに助け舟を出す。
「…なぁ。俺たち、魔王城に行きたいんだけど」
「勝手に行けよ!」
「猫君…状況分かってる?」
「分かる訳ないだろ!いきなり俺を毛玉にしやがって!」
「その耳、切り落としたらもう少し聞き分け良くなってくれるかな?」
「じゃなくて!俺が何した!俺に何しろって言うの!?誰か説明してくれよ!」
 至極尤もな言い分だ。

「かくかく、しかじか。説明終わり」
「小説でそれってアリって感じだけど…まぁいいよ…とりあえず、魔王城の玉座間の扉に繋げればいいの?」
「ちょっと違うわ…できれば魔王の寝首をかきたいんだけれども」
「…アトラクションだからさ。それは無理じゃないか?」
 舌打ちするアリス。伝説の勇者はガラが悪い。

「…じゃあ、こういう作戦で」

 悪巧みはぼそぼそと小声になる不思議。
「…あんた…結構…」
「騎士として、卑怯過ぎてちょっとそれはどうかと思うけど、まぁあと二時間帯で終わらせるなら、仕方ないかー…」
「じゃ、俺、一足先に行くな!後で落ち合おうぜ!」
「はいはーいじゃあ、繋げるよー」
 エリオットがボリスと先に向かった。

「あ、そういえば、こんな機能が…ってアリス知ってた?」
「…使えるわね…じゃ、そういうことで作戦変更☆」
「あはは、もう猫君達行っちゃったよ?」
「いいの、私がルールなんだから」

続く


■なかやすみ
RPGっていうより、ご近所探訪になっている。
一応イベント進行したりしているからRPGだと言いきってみる。
初出日
2010/07/02 Faceless@MementMori