※ブラッドが若干に変態です。いつものことだとは思いますが。注意!

 自分で云うのも何だが、帽子屋ファミリーと云えば、そこいらの新興勢力と同列に扱われるのは心外である。
 マフィアとはいえ、古参であり、どの土地でも間違いなく、最大勢力である。
 何せ『ゲーム』へ参加資格があるのだ。
 格が違うと、自負している。
 私は楽をするためなら、どんな労力をも厭わないと考えてきた。
 結果、私の役は「帽子屋」となった。…多くを語ることもなく、それが全てだろう。


 そんな私を悩ますもの。
 退屈。
 昼の時間帯のあのだるさと眠さ。
 押し付けられる人参色の物体x。
 仕事をしないが、休暇と高級を上乗せすることを望む可愛い子供と自称する門番達。
 迷い込んでくるお客人。

 ………列挙するとキリがないのか?まだまだ出てくる。
 …やめよう、考えることもだるいが、悲しくなってきたような気もする。
 マフィアの私が言うのもナンだが、世の中塩っぱい。そして、酸っぱい。
 何より、大変に素直な我がファミリーの子供…この場合、門番達に限定されるのだが…「ボス最近、愚痴が増えたよねー」「そうだねー兄弟、あれで結構トシだもんねー」などと言われようものなら、それは私の風評として全土に広がりかねない。
 見栄を張るのは大人の男には必要なことであり、見栄を張れなくなったら、タダの枯れた男だ。

 …ああ、今日の紅茶は、少し出しすぎだ…渋みが出ている。
 やはり、ファーストラッシュでは、味が若いか…
 取り替えさせる程でもない。
 エリオットに言おうものなら、落とし前をつけさせてしまう…まったく有能なんだが、程々というものを知らないやつだ…
 ニンキョーだかなんだか知らないが、指の一部が欠損したら、繊細な紅茶の味に影響してしまうではないか。


 …私は愚痴っぽいか?愚痴っぽい気がするぞ?
 愚痴っぽいといえば、時計屋だ。これは個人的な認識による断定だが。私は時計屋のように、眉間の縦ジワなキャラでもないはずだ。
 いかん。これでは「キャラ被り」、酷ければ「キャラパクリ」の誹謗中傷を受けてしまう。白兎のは「謂れの無い…」と流すことができたが、時計屋と縦ジワで争ってはならない。
「きゃー時計屋さんの縦ジワの方が縦ジワ暦が深い分の苦みばしり方が素晴らしいわー二番煎じは…ねぇ?」
 なんて風評は苦痛にも程が在る。
 …そうだ、そもそも時計屋は中立なのだ。
 断固としてキャラ被りなぞ、こちらから御免被る。
 タダでさえ、白兎に難癖付けられたのに、自分からキャラ被りに向かってはいけない。

 どうせ被るなら、ウサギ耳付けて、眉間に縦ジワ付けて、ついでに襟足に三つ編みつけて、眼帯も付けてやろう。
 ………私は一体何がしたいんだ?
 だがしかし、わたしはやるのならとことんやる男だ!


 嫌な想像をしてしまった…咽喉が渇いた…ああ。カップは空か…自分で足すのも面倒だが、先ほど人払いをしたのだった…自分で注ぐのか…はぁ…

 …ポットはこんなに重たいものだったかな…そうか、私が自分の手で淹れるのは、いつも二人分だけだ。大きさがまず違う…

 ああ、この忌々しい昼の時間帯が過ぎたら、そろそろ園に剪定をせねばならん。
 あの繊細は花は何かと手がかかる…風ですらその花びらを傷つけ、そこから痛んでしまう…あの姿は美しくない。
 間引いてやらねば…それが、あの花への賛美だ。

 最近、ちょっと腰にくる労働だが、そんな素振りは絶対見せてはいけない。全身疲労に風呂がいいと聞いて大浴場を作ったのだが、本に書いてあった湯治とやらのほうが、効くのかもしれない。今度、温泉を引いてみるか…?
 …しかし、待て。
 もし、温泉を引くのなら、やはり露天がいいだろう。
 と、なると、エリオットが警備の面から難色を示す。そして露天風呂に「人参風呂だよなー!」と人参を浮かべだしかねない。私は泥つき野菜のように入浴するのか?
 私は芋洗い同様の露天風呂に芋よろしく入るのか?
 それはもはや露天風呂とは言えない。ただのシチューだ。しかも半煮え。
 可憐な乙女のだしなだともかく、おっさんの汁の入ったシチューなぞ…誰の食指が動くものか。

 気分の悪いものを想像してしまった…そう、エリオットに反対されずに露天風呂を構えるとなると…薔薇園敷地内か?…ということはに私が手掘りするのか?
 あの姉貴が、薔薇園で寛ぐ時に、無粋な音をたてようものなら、本気で抗争抗争開始だな。
 泉質は、湯に臭いの無いものを選べばいいとしても「工事中につき、立ち入り禁止」なぞあの姉貴が素直に受け入れることはないだろう。

 …でも、温泉…かぁ…

 キャビネット三段目こと秘密の引き出し見ちゃイヤン、命の保障は☆し☆な☆い☆よ☆に、こっそり取り寄せた温泉穴場ガイド本があるが、今見るか?見ちゃうか?
 …人払いはしてある。
 …し、しかし、この引き出しには、アレも入っている。
 アレはいい…セカンドフラッシュの茶葉…いや、あの瑞々しさはマスカットフレーバーに喩えるべきか?私の最上級の賛辞の一つだ。
 紅茶は飲んでしまえばなくなる。
 しかし、これも…厳重に保護して、丁重な取り扱いを心がけてはいるが、忌まわしい昼の時間帯の光で劣化してしまうような気がする。
 しかし、昼の時間帯の明るい場所でこそ、はっきり見ることができる…
 はぁ、悩ましいことだ。

 …こう考え出したら、見ずにはいられないことを、私は良く知っている。
 引き出しには、鍵があるが、この屋敷で私にそれは必要であり、必要でない。
 私自身が望めば、それは開くからだ。
 …ほら、キャビネットは空いている。
 私はどうにも、それを見たくてたまらないらしい。

 どうしても溜息が漏れてしまう。
 だるいからではない。
 己の意思の弱さは嘆くことではない…この…

「薔薇で喩えるなら、恥らうような咲き初めの、それでも抜きん出て美しいとわかる輝かんばかりの微笑みを湛えた、薔薇園で幼子のようなあどけない振る舞いで羽を伸ばしている姉貴の写真(盗撮)」

 真珠のように、内側から輝く肌、薄く紅を引いた唇
 少し着崩した装束が、それでも下品になることはなく、危うい魅力をかもし出している。
 見よ!この忌まわしい王冠の横に、悪戯に注した薔薇の花!
 あの時姉貴は「どうじゃ?可愛かろう?」と無邪気に聞いてきたのだ。気絶するかと思ったが、どうにか正気を保てた執念の一枚だ!
 シスコン?私はシスコンなどではない。そんじょそこらのシスコン達と一緒にするな!
 キングオブシスコン。ゴッドファザーオブシスコン。シスコンの冠するものは、私が頂点だ!
 お姉ちゃんLOVE!!!!!


 …この写真の魅力に抗うことのできるものなぞ…居るはずもない。
 誰にも見せん!
 これ以上、姉の寵愛を争う相手を増やしてたまるか!
 これぞ☆門外不出!☆
 ちなみに『門外不出』はちゃんとポーズ付きだ!


 そもそも、盗撮がバレたら、あの姉貴が何をしでかすか分からん…
 …少なくとも、盗撮コレクションは全部…没収だろうな…
 まぁ、この観賞用とは別に保存用と備蓄用があるから万が一の時は断腸の思いで…
 ああ、昔みたいにお姉様と呼ぶのもいい…今そう呼んだら禁断度が高い感じがたまらん。
 市井の子等のように『お姉ちゃん』とも呼んでみたい。距離が近い感じだ。
 『姉者』これもまた東洋の武家社会のようで新鮮かもしれない。
 直接呼ぶなら、やはり今の『姉貴』が一番だろう。あの姉貴の「歳相応に格好付けおって」という生暖かい視線が…
 …いかん、ゾクゾクしてきた。
 罪な女だ…ああ、この響きも姉貴によく似合う…はぁぁぁぁ…


「…ブラッド…いいか?申し訳ないんだが急ぎなんだ…」
「エリオット…いいかだと?素晴らしくいいに決まっているだろう!」
「そ、そうか?じゃ…何かいいことあったのかブラッド…ん?その手に大事そうに抱えているのは何だ?見てもいいかー?」」
「大事だとも!…ってお前はなんでここに居るんだ!」
「え!?だって、ブラッドさっき素晴らしくいいに決まっているって…俺の書類がそんなに待ち遠しかったのかと…」
「あ、いや…お前の書類はいつも大切なものだとも。…だがな、入室の許可に素晴らしくいいなんて言葉は…はっ!…見たか?」
「…え?あ?見てない?何かよくわかんないけど、写真っぽいなーとかその位しか…」
「…見たんだな?」
「え、ちょっちょっと!ブラッド!待てって、銃口を俺に向けるのは構わないけれど、この書類まで蜂の巣にすると色々と大変…」
「見ーたーんーだーなー…?」
「ブラッド!目が据わってるって、マジヤバイって!ホントに俺、誰かまでは見てないぞ!」
「と、いうことはだ、やはり…見ーたーんーだーなー…?」
「マジ勘弁してくれ!誰にも言わないって!書類だけは勘弁してくれ!写真に口付けしそうそうだなーとか思ったとかそういうことは言わないから!」
「………―――――エリオット、お前は本当に有能だった。なのに残念だ…」
「マジかよー!寝てないからちょっとブラッド行動がちょっとアレってだけじゃなくてか!?」

 ふと、エリオットの言葉は素晴らしい妥協案のように思えた。
 そうだ。私は眠かったからちょっと行動が怪しかっただけだ(こじ付け)
 うん。そうだ。そうだと決めたらそうなのだ。

「…すまないエリオット。私はどうやら眠かったようだ。ちなみに、これは写真ではない。そして私は眠くて船を漕いでいただけで、写真に口付けようとしていたわけではない。…わかるな?」
 エリオットは耳を垂らして、こくこくと頷く。
「そして、帽子屋ファミリーの序列を乱すことは面倒だ。それを避けるのはお前の仕事だな?」
「勿論だとも!ブラッドに逆らうやつは俺が全部!」
「嬉しいよエリオット…」
 ああ、私の腹心はなんと素晴らしいやつなのだろう。
 忌まわしい物体xの特別フルコースだろうが、一年分の備蓄だろうが、新メニューの開発だろうが…今なら何でも姉の名の許に赦してやる。

END


END
■あとがき
 「駄目だコイツ。早くなんとかしないと…!」
 いつ書いたか忘れた。発掘したので載せる。
 媒体がWEBなので、少しマイルドにちょっと訂正。
 もっとブラッドは変態だった。
 とりあえず、掲載日。
Faceless@MementMori 28/06/2010