「あれの噺をききたいのか?」
「ええ。思い切り恥ずかしいのがいいわ」
お前も困った娘だね。
揶揄の響きが女王陛下の麗しの声に込もる。
「そうだね。恥ずかしいにも色々あるが」
「未熟な失敗でも面白いけれど、その人らしさがあるとなおいいわ」
「さて、この城の薔薇の数ほど噺はあるけれど、どれが一番お前の心を掴むのだろう」少女のような仕種で、その珠玉の顔を緩ませた。
「うんと意地悪をしておやり。それが、この噺の対価じゃ。報告を忘れるでないぞ」
「だから好きよ。ビバルディ」
ビバルティと時計塔の裏切り者
少し濡れたふっくらした唇が花が緩むように開く。
薔薇の花びらを潰して、ルージュを作らせたのだという。
「試作品だというのを、少々強引に召し上げたのだ」
でも、色が赤くないから、職人の首を刎ねてしまおうかと思った。
なんて残酷な女王陛下なのだろう。
しかし、アリスはこの女王陛下に敬愛さえ感じている。
何故なら、彼女だけが、エースをハートの騎士に留めておける畏敬の役持ちだからだ。
「愛に狂った女は、美しいな。アリス」
「ありがとう。エースのことが好きなの」
「その事実だけで、もう余所者ではない。充分この世界の一員だよ」
女王陛下は、見事な指輪を嵌めた手で、アリスの頬を撫でる。
真っ赤に染めた、美しいエナメルの光沢を持つ爪の感触も嫌いじゃない。
「時計塔では言えないわ」
ビバルディに罷免されない現実に晒されて、それでも女王陛下を嫌いじゃないと言い、別の役を降りる道を探し続ける彼が堪らなく愛おしい。
「エースが好き、だからユリウスも好きよ」
彼がいつもと違う顔を見せてくれるから、ユリウスも好き。
「時計屋か…わらわは好かん。あやつは、わらわの時計をなおさない」
こんなに壊れているのに。
いつか、時計塔で見た時と同じ顔をしている。
「わらわにとって、時計屋はあれでなくても良い」
「私には、時計屋はユリウスでなければ駄目なの」
だって、ユリウスでなければ、エースには意味がないから。
理由を聞いて、ビバルティはふっと笑った。
「もしかしたら、この世界で一番厄介なゲームをしているのはお前かかもしれないな。アリス」
エースが好き。だから、エースの好きなユリウスを好きになるゲーム。
「時計屋を殺して、独占したくならぬのか?」
アリスは笑った。自分でも思ったより軽薄に。
「次の時計屋をエースが気に入る保障は無いわ。彼の嫉妬や葛藤が、私のものでなくなるなんて耐えられない」
「では、あやつを殺して、時計を持って逃げたらどうだ?」
「そうね。帽子屋ファミリーなら匿ってくれるかもしれない」
「・・・でもそれは最後の手段ね。ナイトメアが教えてしまわないように、手を打たなくちゃ」
「ほんに、悪い子。アリス…」
「悪いのはエースよ。彼が好き。彼が好き。彼が好き……」
こう呟くだけで、恍惚状態になれる。
ビバルティとの時間が過ぎたら、この真っ赤な世界を、いつものほの暗い闇に狂気を隠す。
END
解説(しないとこんな駄文、きっとわかりにくい^^;)
チャット中に常に二本平行で書いた座興の小説です。
ちょっと改行入れた位ですかね。
■設定
・ハートの国で、時計塔滞在中。
・ビバルディとユリウスイベント発生
・ビバルディとエースイベント発生
■世界観
基礎は原作「不思議の国のアリス」当時の大英帝国の文化様式。
■価値観
原作の"poor Alice"を未熟な世間ズレを倫理観の違いと(ちょっと無理矢理)な解釈にして。
■アリスについて
今回は実は愛に狂ったアリス。
なんというアリス→エース」のアレです。
ユリウスのところで無難に過ごそうと思ったけど、エースと出会って茨道にGO!GO!このままクリアすると3●エンドとか、PC版だとBADENDなんでしょうが・・・
以上、お粗末さまでしたm(__)m
[XX/08/2009] Faceless.
某サイト様閉鎖につき、再録しました。
名前も統一しないし、寄稿しっぱなしだったり。HAHAHA☆
…いやぁ、チャット中に書いただけあって、荒いし酷い…キョーレツにアリ×エスですねぇ。流石スミさんに前科と言われるだけある…
[23/12/2009] Faceless.