今夜は
野暮なコトは駄目よ。
夏が終わる、暗く寒い季節に入れ代わっちゃうわ!
恐ろしい災いを引き起こす神々が人間の前に現れる日だから、お祭りよ!
古代ケルト人は、この神々をなだめるために、いけにえを捧げなければならないと信じていたのよ!おー怖い!
楽しめるだけの私たちは幸せ♪
Jack-o’-Lantrern飾って!できることなら「Trick or Treat!」
「楽しそうだなお嬢さん・・・。」
昼の時間帯、この国のマフィアの大ボス、ブラッドが現れた。彼が昼の時間帯に動き回るのは珍しいことだ。その上、にんじん料理(本人談)を愛する彼の部下を見つめる時のような、彼の顔を見られるのはとても貴重な体験かもしれない。
アリスは、ブラッド率いるマフィア、帽子屋ファミリー双子達と、遊園地の居候ボリスと即席のハロウィンパーティーを企画したのだ。
麗しのハートの城の女王陛下が、舞踏会を開くと聞いて、その時はたいした感慨も無かったのだが、時間帯が過ぎる都度、ちょっと気分が乗ったのだ。
たいした規模にするつもりもなく、嫌がる時計塔の主に、無理矢理、広場の使用許可を取り付けてミニハロウィンパーティーをすることにしたのだ。
「パンプキン〜パンプキン〜♪」
「珍妙な光景だ。お嬢さんがこんなに浮かれるとは・・・。」
ブラッドの声は無視をする。
「・・・俺はパイならにんじんクリームの方が美味いと思うんだけど・・・。」
耳をうなだれる、マフィアのナンバー2の大男は仲良くなってしまえば可愛い。
「なぁ、アリス・・・」
「却下。」
「ひっでぇなーまだ俺何にも言ってねぇのに・・・。」
どうせ、同じオレンジ色ならば、かぼちゃ味をやめて、にんじん味にしようというロクでもない提案なのだ。
ブラッドが少しだけ顔を背けている。きっと笑いを堪えているのだろう。
「お姉さん!ランタンはこれでいい?」
芸術的にホラーなジャックランタンがディーの手で作り出される。
ナイフ捌きは格別巧いのだが、その顔はジャックというより『ぴー』で『ぴー』が『ぴー』だ。
「お姉さん!飾りはこんなのでいい?」
妙にリアルなダムの悪霊の飾り。お前はどこかで見てきたのかと聞いてみたいが、きっと変なところに連れて行かれるので君子危うきに近寄らず。
「うん。思い切り楽しくやってちょうだい!」
でも、ハロウィンだから許す!
双子達は顔を輝かせて、いつもとは違い、採算度外視で飾りつけてくれる。
エリオットも楽しい雰囲気に負けて、その長身を活かして手伝ってくれた。元来働き者の彼は誰よりも率先して動いてしまう。
「帽子屋ファミリーを従えるなんて・・・あの子・・・」
そんな街の声も今は気にならない。
「・・・アリスー遊園地からスナックはケータリングしてきたぜー。」
気まぐれボリスは運んできてくれたお菓子を、器用にカラフルな菓子を小さくラッピング分けしてくれる。彼は器用だ。まあ耳に穿けたピアスの数を数えれば、何となくだが理解ができる。
「何だ?・・・何を始めたんだアリス?」
ボリスがいつもとは違う様子で出かけたことが、気になったらしい。珍しくゴーランドが先触れも無しに時計塔広場に顔を出した。
「ちょうど良かった!ゴーランドも手伝って。」
アリスは駆け寄って、遊園地の主の腕を引っ張る。
「わ!アリスちょっ・・・!」
顔を赤らめ、眼鏡がずれる姿は、この世界の有力者の中で最年長の部類だろうが、可愛らしい。
ひょっこりペーターまで顔を出す。
いつものように駆け寄ってくるのは、頭にカボチャをぶつけて黙らせる。
「・・・。」
一様に沈黙する男性陣にニコリと微笑んで、作業の再開を指示する。
予定より規模が大きくなってしまったが、なんだかんだハロウィンパーティーの準備が整った。
「さあ、ランタンに灯を!」
アリスの号令に、ペーターを筆頭にいそいそと従う。
あちこちに、小さな揺れる焔が出現した。未だ仕上げとはいかない。
「砂時計〜♪」
時間帯を、夜に強制変更。
呆気に取られる男性陣だが、双子達だけは喜んでくれた。
「・・・余所者の基準ってわっかんねー。」
うっかり口にしたボリスの足を思い切り踏んづけてやって、その絶叫を
パーティーの開始の合図にした。
「おい、お嬢さん。ハロウィンは仮装するんじゃないのか?」
知識豊富なブラッド。
「いいのよ。」
「・・・?」
アリスの世界では、兎耳や猫耳は充分に仮装に値する。
「アリス?これは祭りか?」
「そうよ。」
「祭りにしちゃ音楽が足りないと思うんだが・・・。」
「駄目よ。ハロウィンなんだから。」
そうか、ハロウィンは駄目なのか・・・納得するゴーランドにとびっきりの微笑みを献上して話を煙に巻く。
モノ言いたげなブラッドとエリオットは無視だ。無視。
「・・・あれ?なんで、こんなに飲み物があるの?紅茶とかブランデーとかワインに・・・ミードにエール・・・。」
私が運ばせた。ブラッドが気だるげに、そう言った。
「・・・やたら詳しいじゃないか、お嬢さん。」
「流石です、アリス・・・。」
何でも褒めてくれる、白兎が余計な口を挟まないうちに即答する。
「ハロウィンだからよ。」
・・・強えぇ・・・ぼそりと呟いたエリオットは後でシバいてやる。
「・・・コーヒーが無い。」
ユリウスはうるさいとでも注意しに来たつもりだったのだろうが、不満そうに口にした。
「あなたが持ってきてくれるでしょう?」
「なっ!」
「はい、許可したんだから、協力して頂戴。」
「何の理屈だ・・・。」
ぶつぶつ言いながらも、時計塔に急いで戻って行った。
何だかんだ優しい彼は、コーヒーを淹れる道具を一通り持ってきてくれるだろう。
「お姉さーんTrick or Treat!僕達超過労働だよね!」
「お姉さーんTrick or Treat!ただでいいとは言ってないよ!」
双子達の声がこだまする。
「はいっ!手伝ってくれてありがとう。」
手焼きのビスケットを二人の口にそれぞれ差し込む。
「・・・。」
「・・・。」
目を白黒させて、兄弟同士顔を見合わせゆっくりそれを胃袋に収めていった。頬を染めていたのが可愛らしいが、見なかったことにしてあげる。
「・・・やるじゃないか。」
これはゴーランドとブラッドの言葉。
いつもなら、ゴーランドは拗ねる。ブラッドはセクハラをする。しかし、両者が揃う時はお互いの出方を窺うらしい。
「アリス、Trick or Treat!」
「エース!・・・いつから、どこから・・・?」
「その答えは、Trickということ?」
アリスは即座にビスケットを取り出したが、腕を掴まれぱくりと齧られた。
「ごちそうさま。残りは君に。」
ランタンに照らされる笑顔は、いつもより悪戯っぽい。
「タダ食いはしないよ。ちゃんと、対価を置いてきた。」
テーブルには、見事な燻製がいくつか並べてあった。
早速双子達がそのナイフ捌きで切り分け、大人たちは酒の肴にしている。
「わらわもTrick or Treatじゃ・・・。」
「ビ・ビバ・・・」
騒がないでおくれ?そう耳朶のすぐ傍で囁かれる。
「陛下・・・。」
さしものエースも呆れた声をあげる。
「今日は、ハロウィンじゃろう?きっと女王陛下の生霊じゃ。野暮なことをお言いでないよ?ほら、アリス悪戯をしてしまうよ・・・。」
アリスは急いで、新しいビスケットをビバルディの唇の近くに差し出した。
「わらわからも差し入れじゃ。菓子とフルーツを持ってこさせた。」
質素なローブに身を包んでいても、分かる人間には分かったのだろう。
ユリウスは明らかに眉根を寄せていたが、溜息をついて、コーヒーを淹れていた。
「・・・ナイトメアが拗ねるだろう。」
そんな呟きが聞こえた。病院に行くことを約束してくれたら、ビスケットを焼いてあげてもいい。そんなことをアリスは思った。
「ほら、ブラッド、エリオット、ペーター、ゴーランド、ボリス、ユリウスもっ!今日は皆まとめてTrick or Treat!」
面食らいながら、男達は背を屈めて、アリスは次々とビスケットを放り込んでいった。
今日は、ハロウィンナイト。今夜位、馬鹿騒ぎしたっていいじゃないか。
不機嫌そうな人には、ウィンク!
仲良くして欲しいと、手と手を取って、その上に軽いキス!
誰かが踊り始めたら一緒に!ワルツなんて上品じゃなくてもいい、タップだって構わない!
最後は大好きな人と闇に消えよう!
END
■冒頭の賑やかなやつ。
即興で作った適当〜な歌詞もどきです。
さらっと流して下さい。
■某氏アリスにリスペクト
某氏のアリスが可愛いのです。
ドキドキとスキスキな人を見つめちゃうアリス。
もう可愛くて可愛くて×∞
全然オマージュにもならないのですが、勝手に愛を捧げてみました。
自社比、可愛らしさ120%増量を目指したのですが、実現できたのは50%増量くらいです。
全然表現できないくらい、某氏アリスは可愛い。
■向き不向き
本当はこういうネタは漫画でやった方が面白いのです。
オトナのツゴウで文章という制限がかかっています。
(法律上は成人なので、間違っていないでしょう)
■世界観
ハトアリで、舞踏会予告後〜舞踏会前です。
時の無い世界なので、アリスがハロウィンをしたくなったからハロウィンを始めました。
ビスケットは手焼きのとは書いてありますが、アリスが焼いた訳じゃありません。
ここが最大のトリックですね(笑)
イギリス人の多数が好むハロウィン話です。
アリスも現実主義とはいえ、ハロウィンは別腹だったのではないでしょうか?
現実主義アリスも、陽気なハロウィンナイトなのです。
さて、皆様はどのキャラクターと闇に消えますか?
[XX/XX/2009]Faceless.