*死ネタ、オリキャラ(?)を含みます。お気をつけて*
				
				
				
				
				
				
				
				
				
				
				
				私が生み出されたときと、彼を覚えたときの時間は同じだった。
				彼は藍色の長い髪を束ねて白い肌をしていた。
				無表情で私を少し見たら、口を開いた。
				「お前には、私の手伝いをしてもらう」
				そう言って背を向ける、どうやら私は彼に生み出されたらしい。
				無表情を覚えたので、それを利用した。
				
				散らかった部屋で、彼は一冊の厚い本を取り出し渡した。
				並みの少女の腕力ではその本は重く、これをどうするのかと彼を見た。
				「覚えろ、この世界についての知識だ」
				一ページ目から全て脳内に記録するのは10分かかった。
				言葉は覚えたけれど、声を出していいものか分からず暫く静止して時計を直していく彼をみていた。その作業は魔法みたいで私は好感を持った。
				「何も喋らないのか、お前は」
				無機質なその言葉を許可と取り、私は「了解しました」と言った。
				その本をずっと持っていたためかその部分だけ真っ白になって、白と赤が私の手を彩った、痛いです、と彼に言うと「おろせばいいだろう」とだけ言った、床に落下させると彼は驚いたように私の顔を見て溜息をついた。
				私は驚いた表情を覚えた。
				
				「お前にはもう少し知識を覚えさせなければならないようだ。外に出るぞ」
				暫く彼と過ごして、コーヒーの作り方を覚え終わった後、彼は眼鏡を外して「来い」といった。
				
				外、というものを初めて知った。
				胸が高鳴り、それを表情に出来ないのがとても惜しいと思った。
				始めてみる青い空、これが青。白い雲、これが白。彼と私の肌よりも白くてふわふわしている。太陽を直視すると暫く痛みと残像が張り付いた。
				
				彼以外の人間は皆、顔が無かった。
				そういえば私の顔を見た事がないな、今度見てみたいと思う。
				
				「私に名前を与えてくれますか」
				彼には名前があったらしい、街の人間は私たちの方を見ると眉を潜めて「ユリウス=モンレーよ」「葬儀屋だ」などと言っていた。自由に言葉を発せるのがとても羨ましく思えた。
				「・・・必要ないだろう」
				「そうですか」
				少し欲しかっただけだ、そこまで落胆しなかった。
				
				「あそこで食事をしよう」
				彼が適当に選んだ店で彼の選んだ食べ物と同じもの。
				私は紅茶が好きだったらしく、初めて口に含んだそれはとても美味しく思えた。
				デザートのケーキも、甘くておいしい。私が甘いものが好きなのだとは知っていたけれど、ここまで美味しいとは思わなかった。
				「美味いか」
				「はい、とても」
				彼が私を見て優しく微笑んだので、すぐに私はそれを記録した。一番私の好きな表情を彼に見せると、彼は驚きつつも優しく微笑み返してくれた。
				嬉しい感情を表せて、私は胸が温かくなった。
				彼と私の住んでいる塔は、螺旋の階段を登らなくてはいけない。それを億劫だと思ったし、階段に数個ずつある窓から見る景色が綺麗だとも思った。
				
				
				「私はもう少ししたら動かなくなって消える。」
				「それは死と言うものですね」
				「あぁそうだ。死が訪れればこの世界では時計だけが残る」
				私の中では死は肉体が停止し、その肉体が朽ちていく事と記録されていた。私はそれに上書きせずに別のものとして死を記録しておいた。
				「そうなったら、私の時計を修理せず、壊してほしい」
				「了解しました。しかし壊し方が分かりません」
				「このようにすれば良い」
				そう言って見せられた粉々の部品、時計の残骸を見て私は初めて嫌悪感を抱いた、嫌悪と言うよりも悲しい気持ち。だって彼がこんなにも痛々しそうな目でそれを見るから。
				「お前の手で、足で、粉々に」
				「了解しました。」
				悲しい気持ちを表情にできない。はやく悲しい顔を記録したいと思った。
				
				
				
				「食事です」
				「あぁ、ありがとう」
				二人分の食事。作り方は全て彼に教えてもらったもので、オリジナルなど一つもない。飾り付けもできない。
				この前食べたケーキも作り方がさっぱりわからなくて悔しかった。
				想像はできるのに、表現できない。
				「なんだ、食わないのか」
				「・・・・いえ、食べます」
				「なにか不満があるのなら言うと良い」
				「・・・・本を、読みたいです」
				「本?」
				「お料理を、もう少し上手に作りたいのです。」
				「あぁ、今度買っておこう」
				「ありがとうございます」
				嬉しくて微笑んだら、彼は照れた。
				私は照れた表情を記録した。
				上手に笑えていればいい、彼が笑ってくれればいい。
				
				
				
				「面白いか」
				「えぇ、とても」
				料理が沢山載っていて、可愛らしく飾り付けされている。
				全て記録すれば、次になにを作ろうかと胸が躍った。
				「ありがとうございます。とても、楽しいです」
				笑顔を見せれば、次第に無表情は消えていった。彼も私も。
				
				
				
				もう少し、その時間は限りがあるはずなのに、永遠のような気がしてきた。
				彼は全く死を感じさせてくれず、私の中には彼に対して柔らかい感情を持ってしまった。
				この気持ちは分からない、嬉しいのと楽しいのとが一緒くたになって。
				
				「こんにちは、ユリウス」
				「エース」
				「久し振りだね。・・・・俺も、もうそろそろらしくてさ」
				「そうか」
				「最期はやっぱり、アリスもいた此処で、って思って」
				エースと呼ばれたその男は、私が買い出しに行っている間に塔に来たらしい。扉の前で会話を聞いていると親密さを感じる。
				「ただいま帰りました」
				「あ、君完成したんだ。こんにちはー、えっと・・・」
				「名は無い」
				「そうなんだ、少しお世話になるよ」
				「了解しました。では食事は三人分お作りいたします」
				「あぁ」
				材料は足りているし、私の料理を彼が無理に食べていないかも分かるかもしれない。エースと呼ばれた男は笑みを絶やさなかった。それが羨ましかった。
				
				「この子、なんでこんなに表情が少ないんだ?」
				「見たら自動的にそいつの意志で記録するようになっているからだ。お前が笑顔以外の顔を見せればちゃんと覚えるぞ」
				「へー!でもそれでいいよ、本物のアリスみたいになっちゃったらやだし」
				私の顔をじーっとみて彼は笑う、その笑みは何を考えているか予想させないためだろうと思った。
				私は彼が嫌いらしい。
				「俺に全然笑ってくれないよー」
				「お前が嫌いなんだろう」
				「えー、じゃあユリウスには笑うのかー?」
				「稀にな」
				「ずるーい」
				彼私に目を向ける、すかさず笑顔を向けたら彼も微笑む。
				私は彼が好きならしい。
				「うわー、贔屓だよ〜ユリウスってばそういう風にプログラムしたんじゃないのか?」
				「していない。適当に作ったんだ」
				「その割には見かけはそのままアリスだよね。服だってさ。こんな子、ただの偽物の人形にすぎないのにさ」
				私の容姿は少女だった。金髪に翡翠の瞳、エプロンドレス。
				無表情でなければ少女に見える。笑わなければ彼の言うとおりただの人形だ。
				それが馬鹿にされた気がしてとても悔しかった。料理の時よりも数倍。
				「こいつにも意思がある。」
				「うん・・・・そうかもしれないね」
				目を細めて笑う、赤も嫌いになった。
				「そろそろ食事の準備にかかってもよろしいでしょうか」
				いつもよりも早く作る、目の前の彼から逃げる為に。
				「あぁ」
				「今日はなにかなー、楽しみにしてるぜ」
				「ありがとうございます」
				そんな嫌いな彼でも、どこか優しくしたくなる気持ちはなんなのだろうか。
				懐かしいような、そんな気分だ。
				
				
				
				「では、仕事に行ってくる。」
				「了解しました。食事はいかがなさいましょう」
				「好きな時に食えばいい。エースを頼んだ」
				「了解しました。」
				彼の言うことを聞けということなのだろう。
				「いってらっしゃいませ、お気を付けて」
				「あぁ、」
				
				彼が行ってから、片付けを始める。
				といっても普段から私が掃除しているため殆ど綺麗な部屋、シーツを取り入れたらもう完璧だった。
				「・・・・」
				早く帰ってこないかなと、窓から外を見た。
				彼、エース様は今まだソファで寝ていた、布団を掛けて少し、彼を観察する。
				「・・・・」
				カチコチと音を立てる胸に手を当てる、寝ているから大丈夫かなと思ったのだ。
				カチコチ、カチコチ、いつかは彼の時計も止まる。彼とは、私の好きな方の彼。
				同じ音がするのかな、帰ってきたらお願いしようかな。
				そんな事を思っていたらぐいっと腕を引かれて私は彼の上に乗ってしまった。
				「・・・・驚いた表情もできるんだね」
				「はい」
				「君は、自分が誰だか分かるの?」
				「私は私です」
				「そうじゃなくてさ、役も名前もないことに不満じゃないの?」
				「不満・・・?」
				不満、不満ではない。
				「強いて言えば、この体制と状況に不満がありますが」
				私が彼を押し倒したような状況になっている、それがとても嫌だ。
				「・・・・はははっ!!!これは参ったなあ」
				高らかに笑うと、私をぎゅうっと腕に閉じ込めた。
				抵抗することができるプログラムは無い。死に関わるような必要最低限のことしかしないし、それすら私の意志によるものだったからそのままにした。
				「・・・・エース様?」
				「うん」
				顔が見えない、ただ暗闇と、彼の胸のおと。
				カチ、コチ、カチ、コチ
				上着を脱いだ彼からは、彼の匂いがした。
				彼は嫌いだけれど、この匂いは嫌いではなかった。
				柔らかい、温かい香りで私は眠ってしまった。
				
				
				目覚めると、彼が帰ってきていた。
				私を包んでいた温もりの持ち主は時計になった。
				
				
				
				
				「粉々にするのですか?」
				「・・・私には、する資格がない」
				「でも、しなければならないのでしょう?・・・あなたの、大切な」
				友人。
				では、私は?
				私は彼にとって何なのだろうか、
				埋葬者。
				それ以外の何でもない。
				「ご友人でしょう、」
				せめて、知人であればよかったな。
				時計の破壊される音を、瞳を閉じながら感じた。
				これが、悲しいという感情なのだろう。
				
				「悲しいか」
				「えぇ、とても」
				「そうか」
				私はどうやら、大切な人を手に入れてしまった。
				そして大切にすればする程別れが惜しくなるということを学んだ。
				
				鏡を見れば、私は結構気に入っている少女の顔が移る。
				
				この娘とは、死ぬまで一緒だということに心底安心した。
				
				
				
				眠っているとき、彼の体温が心地よく伝わった。
				その体温は数時間前に感じたのとほとんど似ていて、私は泣き出しそうになった。私に涙と言うプログラムなんてあっただろうかと疑問を抱いた。
				
				
				「おやすみなさい」
				呟いた声は、酷く掠れていた。
				聞こえていなければいいなと思った。
				
				
				
				「お食事です」
				「・・・・あぁ」
				彼は自らの手を見ながらフォークを手に取った。
				「美味しいですか?」
				「・・・・っつ」
				一口食べた刹那、彼の手からフォークが落ちた。
				「・・・・?」
				美味しくなかったのだろうか、彼の顔を見る。
				「・・・・・・なんでもない、・・・頼むからそんな顔をしないでくれ」
				はて、私の顔が嫌いになったのだろうかと不安になった。
				だってその時の自分の表情なんて見えなかったから。
				
				「・・・・もう、少しだ」
				「はっきりとは、分からないのですか」
				こんな時でも機械的にしか返せない、自分が外道のように思えた。
				「分かる。もう、少しだ。」
				「壊した時計はどうしましょう」
				「粉々にして、風に流せばいい」
				「了解しました」
				「・・・・アリス」
				「・・・・・?」
				「お前の、名だ」
				「私の、肉体の標本の名ですか?」
				「・・・・お前に、アリスと言う名をやる」
				「ありす・・・」
				私は、アリス。
				自然と笑顔になった。
				「アリス」
				「はい」
				明るく声を出す、嗚呼泣きそうだわ。
				「・・・・来い」
				大きく腕を広げる、私は従い彼の腕に包まれる。
				普段は口が重くて、何を考えているかも分からなくて。
				街に出るたびにこそこそと良くない噂しか立てられない不器用な彼は、この世界で一番温かく優しいものなのだ。
				
				「私は、あなたが好きです」
				「・・・」
				「エース様が死んだことによって、死というものを知る事ができました」
				「・・・」
				こんなに近いのに、手も届くのに、とても大きな壁に隔てられているような感覚があって、その壁は私の全てを否定しているようだった。
				
				私には、彼らのような温もりがない。
				
				「何故、あなたは私を作ったのでしょう」
				生まれてこなければとは思わない。でも何故感情を持たせたのでしょう。
				
				「生まれてきて、あなたに出会えて私は幸せでした。嬉しさと喜びばかりが幸せとは限らなかった、それでも、エース様と出会えて、あなたとであえて」
				
				目からは涙が流れ落ちる、声もかすれている。
				
				「本当に、しあわせだったのです」
				
				私には、彼らのように自由な表情ができない。
				
				
				「私は」
				彼は語り出した。
				
				アリスと言う余所者の少女がいて、彼ら二人は少女に恋をした。不器用にうじうじしながらその恋は確かに実っていった。しかし少女は死んだ。その理由は言わず、だから私を作ったといった。
				埋葬者として、偽物のアリスとして。
				
				「ひとつ、聞いてもよろしいですか」
				「なんだ」
				「あなたにとっての私とは、一体何だったのでしょうか」
				
				「なにを望む、アリス」
				「私は、一番は望みません」
				「あぁ、」
				「ただ、埋葬者だなんて、偽物なんて言わないでください」
				「・・・・あぁ」
				「私は、私は」
				
				私には、彼らのようになにかを生み出す事ができない。
				
				「あなたの時計を直す手が好きでした」
				
				「あなたの真面目な性格も好きでした」
				
				「あなたの綺麗な髪に触れることも、あなたの笑顔をみることも」
				それでも私は、
				
				「あなたの優しげな表情が、なによりも私をしあわせにしてくれたのです」
				
				私は、彼らのように、
				
				「・・・・アリス」
				「あなたの、優しさに、温もりに、包まれていたかった」
				「アリス」
				「あなたさえいれば、それでよかったのです」
				「アリ、ス」
				
				「あなたを、とても愛しています」
				
				
				ひとを、あなたを愛することができた
				
				悲しさで涙を流すことだって、できたのだ
				
				
				
				
				時計の音が止んで、胸がいっぱいになった。
				
				
				
				
				
				
				
				時計を粉々にして、私はそれを袋にしまった。
				その袋は乾いた血がこびりついていて、エース様が持っていたものだった。
				エース様と彼の時計の残骸は、さらさらと入っていく。
				
				「愛しています」
				
				袋を腰のエプロンに巻きつける。
				
				それが罪だというように。
				
				
				
				
				私はアリス
				
				
				
				待つことを、愛することを許された
				
				しあわせな少女だから
				
				
				
				
				
				井の中の蛙は、大海を知らずとも幸せになれた
				
				
				
				
				「これは、ハッピーエンドよね、ユリウス」
				
				
				
				
				
				
				
				
				
	
		
		END
		
		
			
				******あとがきという名の懺悔******
				
				別名神の、Faceless様へ捧げた私の駄文。こんなもん載せることはあるのだろうかと思いつつ書いております。
				
				あとがきって何だろうとか、別に疑問に思ってなんかいませんよ、え、えーっと・・・。
				
				これはですね!(がばっ)私の大好きな曲の『ロボットガァルサヨウナラ』という曲を聴きながら書きました。
				書いたあとの満足感はよいものの、CPが複雑です。
				オリキャラとか、全くと言ってよいほど想像できないれちですが、どうでしょうか?
				
				設定的には、アリス死す(ぶわああああっ)→ユリウス空っぽ→アリス作る→!?(なんだこれ・・・)
				一応ユリアリです。
				このロボットちゃんがアリスかどうかとか、なんだこれとかあれば私に聞いて下さい。土下座しながらお答えいたします。
				
				Faceless様から頂いたグレアリにハアハアして、アリス可愛いとか連呼しながら加筆してたりそうじゃなかったり。
				
				だってアリス可愛いじゃないですky(アリスちゃん同盟とか誰か作らないかな(人任せ))
				
				嗚呼ごめんなさい、話を針金の如く曲げてしまうのは私の癖でございます!
				
				
				最後に一言、Faceless様、これからもこんな奴と仲良くしてやって下さいな、それとあなたは御自分の才能を認めてください、大好きです大好きです。
				
				
				
				以上、枢れちでした!
			
		
	
	
		
		
			※過分に褒められて、むずがゆいのですが。れちさんの原文のまま掲載です。
			蝦で鯛を釣ってみた(爆)
			「○○アリください」「いいですよ」から始まり。
			れちさんは「ユリアリ」とおっしゃっておられるのですが、エスアリだったり塔だったりとても美味しい・・・
			れちさんに詳細な感想をこの後お送りする予定でっす♪
			当サイト、リンクページより飛べます。是非、一度遊びに♪
			[29/10/2009] Faceless.