霧の夜話

 …彼にお父様の姿を重ねたわたくしは愚か者でした。
 男と言うのは所詮そんなものですのね。
 期待を裏切らないものです。


 夜の帳が下りて、何かが蠢くような夜です。
 あなたが幼い頃、町にやってきた旅の歌劇団を屋敷に招きましたね。
 その時の演目を、覚えていて?
 嵐ではないけれど、静か過ぎるこの夜は、何かが夜襲をかけようと目論んでいるのかもしれません。


 今晩、高所の荒野(ムーア)からなだれ込む霧の軍団は…
 …ふふ。よしましょう。

 精霊達があなたの噂話を聞きつけて、連れ去ってしまっては大変だから。
 不思議ね、こうしてペンを取ると、あなたが目の前に現れるようで、愛おしくてたまらない。
 可愛いあなた。
 何か言いたいけれど、いつもわたくしを思いやって、また飲み込んでしまうのね。

 便箋が湿気を吸って、ペンがいつもより沈んでいるわ。
 あなたの気持ちも…こうだったのかしら?


 わたくしの可愛い妹。アリス。
 あなたの為に雇った、あの家庭教師について、あなたに話しておかなければなりません。きっと、あなたの中の探求者がいつか答えを見つけようとするだろうから。


 あなたのカヴァネス(女家庭教師)は、わたくしより相応しい者は見つかりませんでした。
 中流階級の女性同士、どうしても家格の関係上、主従の関係を拒みたいもの。
 敬愛するお父様は、お母様を愛していらした。
 後添えを得ない、お父様を鑑みて、どうしてもカヴァネスに相応しい女性は我が家を敬遠してしまったの。

 そんなお父様が、先々のことも考えてあの候補者達を選んだ。
 候補者は…というより彼らの家族は、お父様の援助が喉から手が出るほど欲しい、零落した貴族達よ。パブリックスクール出身の男達は、襟を高くして、それを隠していたけれど、事業で成功したお父様の資産目当てだったわ。
 仕方なく、貧乏貴族の中でも、一番歴史ある名家から選んだのに。

 貴族の誇りにかけて、せめて愛する妹である、あなたの名誉を汚さない相手を見込んだのよ?
 思わせぶりに微笑んだら、彼はわたくしを見て頬を染めた。それを見てわたくしは胸を撫で下ろて、彼をあなたの家庭教師にしたの。
 仮に浮名を流しても、わたくしで済めばと。


 なのに、あなたは。
 …愚かな妹であるあなたは、男に逆上せてしまいました。
 ああ、可愛い子。わたくしの、その時の絶望は分かって?

 頬を染めて、相手の色に染まろうと…。
 そんな姿を見せては、不埒を働かない男は居ないのよ?
 わたくしに出来たことといえば、あなたの名誉を護ってあげることだけ。


 どうして、いつもそんなに傷ついてばかりいるの?
 転んで泣いて、お針が扱えなくて泣いて。
 今度も、わたくしに、そっと慰めを求めてくると思っていたわ。

 …でも、あなたは。成長をしたのね。
 その手を何色に染めたのか?ピアノを弾くだけの節くれ立った手ではなかったわ。

 ぐっと、自分の意見を持って。
 末の妹に責められても…お母様とわたくしのためには、泣いてはくれないのにね。
 でも、わたくし達はあなたにとって泣けないほどに特別ということね。


 わたくしを恨んでいて?
「君の幸せを望んでいるわけじゃない」
 そんなことを、あなたに告げた、あの男を家庭教師に選んでしまった、このわたくしを。


 あなたが、わたくしを心底嫌いだと思ってくれていたらいいのだけれど。
 優しいあなたは、きっとそんなことはできなくて、袖を濡らしているのではないかしら?
 わたくしは、あなたがずっと愛おしくて仕方がないわ。
 不思議ね、あなたの怒りですら、わたくしに向けられる感情ならば嬉しい。


 わたくし、すっかり病んでしまったの。
 お母様と同じ病。
 だから、分かる。きっとあなたとは、今生で会うことは無い。


 わたくしに科せられた罰ね。あなたは、今頃は素敵な娘になったかしら?
 それとも、労働階級の女のように、真っ黒になって働いているのかしら?

 でも、きっと。
 夢はみないフリをする、おませさんなあなたのままね。


 …どうか、辛くなったら、この家に戻って来てちょうだい。
 その頃にはわたくしは、召されていると思うから。
 何も気にすることはないわ。疲れた身体を休めてちょうだい。


 もしも、わたくしの想いに触れようとしてくれるならば。
 …あなたが傷つくだけよ。およしなさい。

 決して、あの素晴らしい日曜の午後に耽ってはいけないわ。


 庭に、接木をした林檎の苗を植えたの。
 あなたが家を出た日から、あなたの代わりだったのよ。
 この樹が実をつけたら、パイを焼いて、またここでお茶をしよう。きっとその頃には帰ってきてくれる。わたくしの、おまじないだったの。
 あなたが、この樹の下で眠ってしまわないように。見張るのはわたくしの役目。


 …この手紙を書き上げたら、イーディスに投函して貰います。
 あの子、怒っているわ。もしかしたら、この手紙。しばらくは届かないかもしれないわね。

 わたくし達が仲良しだから、仲間はずれだと思っているのよ?
 ふふ、可愛いわね。

 イーディスと二人、可愛いおばあちゃんになったら。
 いつかきっと、この手紙を読んでちょうだいね。

 二人とも、お母様が残して下さった、わたくしの可愛い妹よ。
 ここは、紳士の国でもあるけれど、 女王陛下の常(とこ)しえの都でもあるの。
 あのロンドン橋の贄となった女王陛下が護るこの国ならば、わたくしもあなたを護ってあげる。

 どうか惑わされずに。
 愛するアリスへ。

 霧がわたくしを連れ去っても。どうかあなたは…
 …あなたは、幸せになることを望まないかもしれないわね。

 ああ、瞼が重い。そろそろね。
 おやすみなさい。可愛い子。
 私は幸せよ。この手紙はそれを伝えたくて書いたもの。決して…

END

[お題:君の幸せを望んでいるわけじゃない]
■れちさんからのリクエスト。
百合系処女作。

[06/11/2009] Faceless.


お題:初恋、もう既に時遅し

 君を見ていると辛くなるんだ。
 初恋を捧げてくれた、翡翠の瞳の少女。

 魔女の色と揶揄する人も居るかもしれないけれど。
 君のお姉さんと同じ色だから、愛おしい。

 同じ髪の色、同じ瞳の色。
 どきりとする同じ仕種。君の事も好きだと思ったよ。

 でも、抱きしめてみたら、薫りが違う。
 日向の匂いのする君も、嫌いじゃないけれど。
 あの…向かい合ったときの、スミレの香りを手に入れたかったんだ。
 スノーフレークに包まれたような、儚い人。

 本心を打ち明けた時、無理をして、笑ってくれた君も好きだ。

 だけれども。
 重ね合わせたその手。
 それで違うことが分かってしまった。…男だからね。


 君の家は裕福な中流で、名誉のみの貧困貴族の僕の家は君たちを疎んでいた。
 中流階級ごときが、僕達の真似事をしていればと、滑稽さを嗤っていたんだ。

 せいぜい、君の父親が媚び諂って、君たちのなかで一等綺麗な娘を差し出してくれれば、家名に傷を付けずに、折り合うことができたのに。
 代々我が家に受け継がれた、花嫁衣裳を彼女に纏わせて。その指には同じく当主の嫁女のエメラルドの指輪で、当家に縛る。

 勿論、我が家の文化的事業に投資するということで、我らの名誉を立ててくれてもいいけれども。そんな味気の無い付き合いは、貴族的ではないと思わないか?

「我ら女王陛下の庇護の許、紳士でありたい。」
 …それが君たちが貧乏貴族と心の底では思っている、僕達の唯一無二の誇り。父君がそれを傷つけなかったとは…言わせないよ?
 君たちは馬鹿げたことと軽んじる、我らの名誉は…家名に準じて重いものなんだ。君たちから見れば、非合理的であるそれらが、我らの財政を逼迫(ひっぱく)させていると哂わば哂え。

 レースに出る牝馬を鑑定するように、事実をただ告げよう。
 ミス・ロリーナが好きだ。

 遊びの恋じゃない。名誉にかけて誓う。
 …僕の初恋、もう既に時遅し。
 彼女は断固として、受け入れてくれなかったよ。

 君にはこの不名誉な事実を伝えておく。
 彼女の名誉を護る為に。
 …あのスミレの香りを、君だけのものにしておくのは悔しいから。


 紳士たる者、名誉にかけて、君とはこの先ずっと付き合いを断つことはない。
 折につけてカードを送る。「ごきげんいかがかな?」と。
 そして、君も名誉にかけて、僕にカードを送らねばならない。
「ありがとう。あなたもごきげんいかが?」そのように、我が教え子は返してくれるはずだ。そのように教えたのだから。

 便りには、スミレの話題を時折混ぜるよ。対抗心の強い君が問いかけに答えないわけがない。
 君の手紙から、スミレの香りを探す。
 それくらいは、赦してくれるだろう?

 初恋、もう既に時遅し。
 スミレの香りは初恋だった。
 いつか、きっと手に入れるつもり。
 恋物語の王道だとは思わないか?冗談だと思ってくれても構わない。

 手に入れたら厭きるかもしれない、でも朽ちるまでは…
 …絶望に満ちるまで愛し、踏みにじるよ。あのスミレを。

END

[お題:初恋、もう既に時遅し]
問題の家庭教師の話。重箱の隅をつつく(笑)
れちさんとスミさんに捧ぐ!

[07/11/2009] Faceless.


Counter part

「だーれだ?」
 大丈夫。間違えても、お姉さんの命を奪ったりはしないよ?
 でも、キスをしてね。
 頬でいいよ。…サービスしてあげる。
 間違えたフリして、またキスしてくれるのが一番ソソるな…。
 そして、僕の抱擁を拒絶しないで。


 僕達は二人で一つの役持ち。
 合わせ鏡の僕達。

 申し訳無さそうに、お姉さんは僕達を見分けられないことを詫びた。
 そんなの、どうでもいいことだよ。
 僕達だって、どちらが、どちらの名前だったかそんなに気にしていないんだ。
 生まれた時から、互い違いに、それぞれを演じて。…そういうゲーム。
「背徳」…何それ。そんなの僕達子供だから、よくわからないよ。
 ボスも「知らなくても、マフィアはやれる」って言ってたしね。
 あいつだってそうだ。大罪人でマフィアやってる。…詳細は、お姉さんが興味持つと妬けるから、言わないけどね。


 だけどね、お姉さん。
 その気になったら、言ってよ。
「僕に寝返ってもいいから」
 兄弟よりお姉さんが大切だから。…ね。

「さぁ、僕はだーれだ?」

END

[お題:僕に寝返ってもいいから]
双子達は可愛い。子供でも大人でも好きだ。

[07/11/2009] Faceless.


Colors

 今、私が着ている服は、姉さんのお下がり。
 姉様は新しく仕立てることを提案したけれど、下女にくれてやるなんて嫌だった。

 だけれども、同じ色は嫌だったから、染め直しをした。
 姉様の制止も、姉さんの静止も無視して、私の色に染めるように言った。

 出入りの商人が渋い顔をして言ったことを覚えている。
「お嬢様、良い生地を使っており、痛んでもおりません。しかし、染め直しをなさるのでしたら、濃い色でお染になることを、私共としてはお薦めいたしたいのですが…。」

 体のいい渋り文句だ。

 仕立て屋も布地屋も儲からない。しかし、手間ばかりかかる、決して薄くもない色から全く印象を違える色への変更だ。
 職人の腕を試され、看板に傷をつけないとも限らない。

 全く時代に合わない注文だ。

 しかも、私が注文した色は、決して世に広く好まれる色というわけでもない。店の評判も上がらないだろう。この裕福なだけの家から、蜜のような仕事をくれてやるもんか。

「やってちょうだい。」
「…お時間をいただきますよ?」
「構わないわ。」
 有無を言わせず、末娘に相応しい我儘を言い放ってやった。


 季節がぐるりと一周する頃、ようやくそれは仕上がった。
 仕上がりは、姉様の菫色とも、姉さんの露草色とも違う、私だけの色。…満足だ。
 誰にも悟らせはしない。
 賃金も、相場通り。渋ったわけでも、弾んだわけでもない。


 この家を取り巻く人間模様が全く変わったこの家で、ひとり、部屋で服を抱きしめて私は笑った。

 全てを私の色に塗りつぶしたいの。
「可愛いでしょう?」
 鏡に向かって私は問う。ちょっとした余興だ。髪の色は三姉妹一緒。一見しただけなら、在りし日の面影を共有する私達。

 でも、この服は完全に私のものになったのよ。
 次は何を貰おうか。

 そうやって、削いで、殺いで…いつか、全部私のものにしてやるんだ。

 残酷?そうね、あなたの妹だもの。
 幸せ?そうね、あなたの妹だもの。

 だから、残酷な君に幸あれ。
 一番正しい娘の私が幸せになる為に。

 …理解できない?
 今更何を。今まで私のことなんて省みたことなんて、無かったわよね?

END

[お題:残酷な君に幸あれ]
れちさんのリクエスト。イーディス×アリス
自分が正義とか言ってるあたりが若さとしてみる(笑)

[12/11/2009] Faceless.


虜囚達



 花が撒かれ、金管の音高らかに。
 戴冠式を待つ新女王が恙(つつが)なく入城せん。


 寿ぐ式の時間帯に向かって、城下は祝祭の活気で満ち溢れる。
 祝詞が街を彩り、気の早い貴族達が、我先に覚えめでたくと謁見を求め、使者と貢物でハートの城が賑わう。

 同じ賑わいでも、王の執務室は喧騒に近い賑わいを見せていた。
 文官、武官、奥向きの使用人頭…或いは、口頭、書面と、我はさまざまに報告を受け取る。
 …王といえど、ただ雑務に追われるこの身としては、どちらにせよ寿ぐべくもなく。

「王とは役目ばかりなり…」
 自嘲気味にサインとサインの間に呟く。手が痺れる程のサインを繰り返す合間のことだ。
 無機質な部屋付きの使用人達は、発せられたものが王の命令であるか否かだけを判断する。
 有能な彼らは、何も耳にしなかったとばかりに仕事を続ける。
「…されど、役持ち。唯の木偶ではない」
 即ち、実務を司るからこそ…厭わしくなれば、先の女王と同じくすればよい。

「…我が君」
 有能な侍従は、それ以上の発言の自重をと書類の認可を促した。

 そう、女王は国の礎…ゲームの捨て駒となるように、我が采配を振るえばいいのだから。

 控える侍従達にニコリと微笑みを返す。
 この部屋の主は、順良そうな顔に、役持ちらしい陰惨な顔を隠した、疑似餌のような男。…捕食者のつもりで近寄れば、気付いた時には絶命が待っている。

 彼は、冠を戴き、王杖、王笏を授かった身である。
 しかし、真の王たる証、宝珠は統治者たる女王の与かり。

 彼は思う「我はそれを嘆くことはない」と。
 …先の女王のことなぞ、もはや誰の頭にもない。無論我も。

「そろそろ…か?」
 しめやかに行われるべき式は、古式に則って荘厳に行われる。
 式次第を間違えば、その者の首一つで治まるものでもない。

 彼の予想通り、間もなくして戴冠式が無事終わったことを告げる報告が入った。
 王なれば、王だからこそ謙ることもなく、こうして自分の「役」のみを続ける。



 両の手に数えて、余る時間帯が過ぎた頃、彼にしては、珍しいことが起こった。
 別命を与えた近従が王に泣きついたのだ。…決して無能でないはずの者が…

 仔細を聞けば、新たなる統治者が入城後、塞いで誰とも口を利かぬとのことだ。
「どうか、少しでもいいから」
 近習の命がけの懇願も無視して斃したそうだ。

「……ふん…」
 どのような階級出身者も、城に上がれば蜜の味に溺れ…傅かれ、皆が平伏すことに…がんじがらめになるのに。
 口も利けぬとは、どんな田舎娘だと興を覚えた。その心意気や好しと、初めて女王の居間に足を向けた。


「あなにやし…」
 そこには、おりの無い葡萄酒色の瞳。それを収める白磁の面、豊饒の大地に実った耀く葡萄のような、たわわな艶髪があった。
 その小さな身に不機嫌さを湛え、雪崩を待つ山のように、無言で人を寄せ付けない。

 柔らかな敷物の上にクッションを沢山落とし、まるでそれが城壁のように見える。
 幼い統治者は、ひとつ縫いぐるみを抱えて全てを無視している。

「…………」
 正しく王の感嘆に能うものが、そこにあった。
 彼は、従者に目配せをし、人払いをした。
 それでも幼い女王は、不機嫌そうに全てを無視し続ける。


「…愛しきもの、常に我が杯を満たし、溢れるままであれ、醒めぬ酔いで我を縛れ。」
 一つ呟いて、顔に人好きする笑顔を載せて、ついと布地と綿でできた城壁に囲まれた少女に近づいた。
「…我には憂いは有らず。」
 少女に抱えられた縫いぐるみに近しい表情を作る。
 目を穏やかに、口角を上げ…
 …さあ、この餌に釣られよ。

「ご機嫌麗しゅう…」
 その時の不機嫌そのものの視線は、王の心をしかと掴んだ。

 恋を知ったばかりの少年のように言うならば「僕を見て、記憶に残して」と悪戯で少女を泣かせてしまう。
 幾度目かの恋ならば気取って「…できれば愛して」と乞い願うところだろう。

 この現王は、そのどちらでも無かった。

 少女に抱かれた縫いぐるみと視線を合わせ。それに成り代わろうと決めた。
 裏切ることなぞ、想像もできない…しかし完全に満たすこともない存在。

「…………」
 穏やかに、彼女の城壁をすり抜け、内堀に入る。

 足音はできるだけ軽く。縫いぐるみが歩いたら、このような音になるようなと連想させる軽やかな足取りで。
 焼くような視線が彼に向けられる。男は、その身が恋の劫火に焼かれるのを知りながら少女に近づき、視線を下げる。


 少女の瞳に彼自身の影が映る。
 悟られないように、しかしその眼光は…我を見よ。我を忘れることなかれ、我を…と叫ぶことを隠さない。
 まだ、幼い女王はそれを読み取れるほど成熟してはいないようだ。
 その事実がまた王の視線をぎらつかせる。それを隠す為に目を細めて微笑んだ。

 もう少し、危険な自縛をして、女王に近づく。
「…どうせ、君は優しいから…」
 王は音を乗せず、唇を僅かにそのカタチに動かす。
 少女が抱いた縫いぐるみが、きゅっと苦しそうに歪む。

 何かに縋るものである限り、我の思惑に気付くことはあるまい。
 そう確信し、少女に向けて、玩具の言葉を向けた。


 この世の全てが、少女への恋を、美しいものとして扱ってくれるものでもない。
 しかも、それが満たされぬものの美を求めるものならば、尚更だ。
 ならば、私が必要とされている状況を作り続ければ佳いのだ。
 私が恋されていればいい。

 少女の手の縫いぐるみを撫でる。…本当はそれの視線を隠す為に…
 縫いぐるみになったつもりで、王は女王に語りかけた。
「ねぇ、君の名前を教えてよ」
 そして、その小さな素足に口付けた。

END

[お題:どうせ君は優しいから]
[副題:できれば愛して(どうせ、君は優しいから)]
王→女王。まーた隙間な。役持ちですしねぇ。
ビバ様がツンデレを続けている相手だと思うと、ちょっと面白い。
ルールギリギリのお題のこなし方?(^^;
お題の二人称指定が「君」だったので、エスアリもしくはアリエスでもよかったのですが。
もう既にこのテキスト。その他に収納しちゃったので、その他の中で該当しそうな役持ちはこの二人だったんだよーとか(笑)
これでお題の任務遂行完了。頭から順に書いていって、最後まで完結させる。自分の課題は完遂。
この5題はれちさんとスミさんに全て捧ぐ!いつもありがとうございます。これからもよろしくです!

[19/11/2009] Faceless.


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